★金融コラムD

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では予告どおり、不良債権問題とは何だったか、を振り返ってみましょう。

不良債権問題が一般に認識され始めたのは、私の記憶が確かなら、住専問題が取り上げられてからです。今振り返れば住専の問題は確かに公的資金を投入しなければ、解決不可能な問題だったようにも思いますが、当時の世論の反発・反対は大変なものでした(まあ少なくとも農林系金融機関は助かったでしょう)。バブル期にさらなる貸付先(資金運用先)を求め、甘い査定で大量の資金を貸し込み、貸付先がバブルの崩壊で資金繰りに窮する、金融機関も困る、そんな典型的な90年代後半の金融不安の序章でもありました。
 その後各金融機関の経営悪化が伝えられ、長銀・日債銀の破綻、「ジャパンプレミアム」なんて言葉もこの頃、持てはやされました。また、実際の不良債権額と、発表される不良債権額との乖離、日本の会計基準に対する不信が高まったのもこの頃でした。
 その間政府はブリッジバンク制度(もう今は別制度だったかな?)、公的資金の注入、金融検査の厳格化など、様々な制度・施策を行い、どうにかこうにか危機を乗り切って来ました。
 本当はものすごい初期に公的資金注入で一括処理する手もあったのですが、それでは世論の理解も得られませんし、モラルハザードも否めない状況だったと、私は思います。
ではなぜ不良債権処理を急がなくてはならなかったのでしょう?本当なら2000年前後に金融機関を、もっと厳しい検査等によって整理することも可能だったのではないでしょうか?

 そもそも金融機関の役割は何でしょう?
一般的に言われるのは、信用創造です。ありきたりの例ですが、例えば預金者Aさんが銀行に100円預金します。すると預かった銀行は債務者Bさんに100円貸し出しに回します。この時(潜在的に)Aさんが自由にできるお金は100円、Bさんが自由にできるお金も100円、つまり銀行が預金の払戻しを保証している限りは、実際には100円しかなくても、市中には200円のお金が存在するわけです。お金のあるところから、ない所へ流す。これが信用創造です。

 つまり不良債権問題で、銀行が預金の払い戻し不能に陥った場合、もしくは貸出しを急激に緊縮化した場合、市中に出回るお金が減少し、企業の倒産→給与の減少→家計消費の抑制→企業が商品価格を値下げ→企業業績の悪化→給与の減少、という過程をたどり、いわゆる「デフレスパイラル」に陥ることになるのです(あくまで一例です。他にもデフレスパイラルになる原因はあります)。これでは景気が腰折れして、政府も困りますよね。
 もう一つ違う面からマクロ的に見てみましょう。前回私は限界消費性向の部分で、「公共投資が消費ではなく貯蓄に回ってしまった為に、財政政策は十分な効果を得られなかった」という旨のことを言っていますが、本当にそうでしょうか?確かにそれも間違ってはいません。しかしもし、預金されたお金(貯蓄)を金融機関が信用創造に回す体力があれば、どうだったでしょう。お金は余っている所から足りない所にきれいに還流し、経済は活性化したのではないでしょうか?
(金融機関が元気であれば、決して貯蓄型経済は一概に悪いとも言えないのです)。

だから政府は、不良債権処理・金融機関の健全化を急ぎ、金融機関をできるだけ整理せずに景気回復を図ろうとしていたのです。
(ここまで説明すれば、モラルハザードの問題はありますが、金融機関への公的資金注入も一種の景気対策だという事が、少しは納得して頂けるのではないでしょうか?)。

しかしそうは言っても金融機関が元気を取り戻すにも時間がかかりますので、政府は別の手を打っておく必要があります。それが金融自由化です。
政府はイギリス・アメリカの仕組みをお手本として、銀行窓口での投資信託・生損保・株式仲介(株は予定ですが)の業務を取り扱わせるようにしました。この目的は一見単なる金融自由化にも見えますが、本当は国民の貯蓄を削って、株式市場に資金を還流させ、上場企業の財務を改善させるのが真の目的です。その上銀行はその仲介手数料で体力回復できるし、正に一石二鳥の政策なのです。
(規制緩和のすべての効果が現れるまで時間がかかると言われる一例ですね。)

 今は、総合的な景気回復の仕上げ段階です。それが円高阻止の介入です。
前回のコラム前半で私は、マンデルフレミングモデルの、ある条件下では財政政策は無効になると言っていました。それはなぜでしょう?
 IS-LM分析のグラフを使って説明するとややこしいので、簡単に説明すると、財政政策が行われると、
景気回復・消費拡大→金利上昇→資本流入→円高→輸出の減少等で景気後退→元に戻る
という流れになるのが、一応の定説です。
昨年来、政府日銀は必死になってこの流れ、つまり財政政策が無に帰してしまう流れを、円高阻止という手段で、行っているのです。
 オーバーシューティングを止めているだけ、と、言い訳されればそれまでですが、実際には、この意図があるのは明らかです。
 しかし介入もいつまでも続けられるわけではありません。米国債もどこまで買っていいか分かりませんから。次はその反動をソフトランディングできるかが、ポイントとなるでしょう。

 デフレスパイラルもいつかは止まります(もう止まってるんでしょうけど)。
「企業が商品価格を値下げ→企業業績の回復」という流れになれば、いいだけなんですから。
 様々な要素が絡み合って、今日も相場・株価・そして景気は動いていきます。

 ※ちなみに、政治家にとって、なぜ公共投資が必要なのかはこちらを参照下さい。

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This essay is update on Jun.26,2004
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