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7.預金封鎖の可能性





























































































































 最近、政府日銀による預金封鎖の可能性について論じたものをよく目にする。
新聞でまともに論じられることまではないものの、少年マガジン連載のマンガ「M.I.Q」でもその可能性について指摘されている。 では預金封鎖は実際に行われることがあるのだろうか?今回はその可能性について論じてみようと思う。

そもそも預金封鎖とは何だろうか? 明確な定義は無いのかもしれないが、 預金封鎖とは本来預金者が引き出せるはずの預金が、国策により払戻しを凍結される事態のことを指し、 場合によっては次のような政策がセットで行われる。
 (A)ハイパーインフレを抑制する手段として、外為市場で通貨の切上げが行われる。
 (B)外貨準備高の不足・通貨信用不安などの要因により、外為取引が停止され、IMFから緊急融資が実施される。
 (C)通貨調整による国家財政の破綻・混乱を伴うため、国債のデフォルト・モラトリアムが実施される。
 (D)新しい通貨(例えば新円)への切替が行われる。しかもそれ(含現金交換)は非常に短期間に行われる。
 (E)預金凍結により財産税が課され、マネーサプライの調整、間接的には国家財政の穴埋めがなされる。

特に(E)については、国民の財産に直結する問題として、世間では関心が高い。 財産税に関しては現行の日本国憲法で私有財産制が保障されているため、法制的な整備を待たなければならず、 実現には大きな壁がある。ただ、財産捕捉の為の昨今の動き・@有価証券の電子化A住民基本台帳の整備 B不動産の証券化などから、「政府は財産税導入の準備をしているのではないか?」と推測する人も多くいる。 事実、政府日銀にかつて研究会が存在した事は国会でも取り上げられたことがある。 その上先日の新札発行を、現預金のあぶり出しの動きと見れば、確かに準備説も納得がいく。
しかし実際問題、これらの動きが数年で進むだろうか?@Aは数年で完了するかもしれないが、 Bは全国の複雑な土地権利事情を勘案すると(例えば他人の土地に勝手に建物を建てているような地域もある)、 権利証の証券化など気の遠くなる話である。新札発行も、現金の捕捉というよりも、むしろアングラマネーの あぶり出しの側面が強い(隠してた現金も新札に換えないといけないので)。
よって私の個人的な見解としては、(E)の財産税の導入は非現実的と思われる。

その上(D)の新円切替を伴う預金封鎖自体にも次のような問題がある。
 (イ)決済の自動化・オンライン化・グローバル化が進んでいる。
 (ロ)IT技術者等の確保
 (ハ)国債のデフォルト率と新円の切替率
 (ニ)政治経済学的な側面
 (ホ)預金封鎖の効果
まず(イ)から述べると、今の社会があまりにも決済で連鎖しすぎているという問題がある。預金封鎖が行われると、 資金決済は、国内のものは勿論、海外へのものまで全て滞る。 これは当然国際問題に発展する。次に新円切替が行われた場合、契約上決済を旧円ベースで行うか新円ベースで行うかで 大きな混乱が生じる。結局は日本の信頼が地に堕ちるだけで、 預金封鎖は日本経済の自殺行為に近い。 ちなみに日本ではかつて実際に預金封鎖が行われた事がある。この時に財産税も実施されている(税率が高いのはお金持ちだけだったらしいですが)。 ただこれは戦後間もない頃で、決済のオンライン化もされておらず、GHQ主導という側面もあった為、実行に踏み切れたものと思われる。
次に(ロ)だが、仮に新円切替で引出制限・財産捕捉という事態が起こった時、銀行預金の名寄せ等が必要になってくる。その際各機関からの情報を機械処理する大量の IT技術者が必要となる。果たして国はそれを秘密裡に確保することができるのか? 手続きはスムーズに進むのか?非常に疑問が残る。
(ハ)についても大きな焦点になる。預金封鎖が起こるという時点で国債はデフォルトになる確率が 高い(100%とは限らない)わけだが、そのデフォルトされた分は国の利益(債務免除益)になる。 イコール国債保有者の損である。一方で、政府日銀は新円の切替事業を行うことによって、借金(国債等)のインフレ効果を享受することができ、また新しいお札を安価に刷ること自体で収益を得ることができる。 つまりここからも国の利益が生まれるのである。ここで考えてみて欲しい。例えば政府日銀が 「100」の利益をあげようと企図した場合、国債のデフォルトから「10」、新円切替事業から「90」の利益をあげる 事もできるし、国債のデフォルトから「90」、新円切替事業から「10」の利益をあげる事もできるのである。 つまり二つは、場合によっては利益相反の関係にある為、比率の線引きの判断が非常に難しい。 これによって国債のデフォルト率も変わるのである。 この配分を、諸般の利権にとらわれず、きっちりと道徳的に試算・実行することが果たして官僚にできるかどうか、非常に疑問である。
そして(ニ)だが、例え預金封鎖が最良の策だったとしても、与党がそれを認めないという問題がある。なぜなら国民が自分たちの財産権を脅かすような政策を支持しないからである。その結果当然与党は、正しい政策であっても選挙対策のため、そのような政策は決して採用しない。官僚からしてみれば、たかが一内閣を犠牲にして新円切替ができれば、政策的には大成功だろうが、 そうは行かないのが世の常だと思われる。
最後に(ホ)だが、本当に新円切替が効果があるのだろうか、という疑問である。確かに(ハ)で述べたような効果はあるだろう。 しかしそれは一時的な効果であり、 その後の信用収縮などの副作用を考えると、それを抑える事ができるのかという不安は付きまとう。
結局ハイパーインフレもなく金利も安定している日本の現状では、これらのリスクを冒してまで預金封鎖に踏み切るには、 メリットよりデメリットの方が大きく、具体的な預金封鎖像を描くのは困難になっている。

 それでも、「やはり預金封鎖・財産税が心配だ。」という方のために、できるかどうかは別にして、 自分の財産を自分で守るために、いくつか対策を検討してみましょう。 普通に考えて、以下のようなものが考えられます。
 (a)日本に居ながらにして、海外の銀行に口座を開設する。
 (b)現金をゴールドバー(金の延棒)に変えておく。
 (c)現金を金融債・未公開株などに変えておく。
 (d)外貨現金を保有しておく。
 (e)日本の銀行に外貨預金を作る。
 (f)自ら海外に出向いて、現地で口座開設を行う。
 (g)日本をあきらめて、全面的に海外に移住する。
以上のようなものが考えられますが、一つ一つ検討してみましょう(gは除く)。
まず(a)ですが、日本に居たままでも海外に口座開設はできます。パスポートの証明など弁護士に頼んだりと 何かと色々面倒みたいですが、通貨が限られたりするのでご注意を。ちなみにタックスヘヴンのケイマン向けの ものも、できるらしいです。米ドル・ポンド・ユーロの三つで最低100〜200万円程度だと聞いた事があります。 ただ(a)の方法は、財産税のがれ(つまり資産を少なく見せる=過少申告)には適さないかもしれません。 海外送金手続きもあるので、税務署には資金を捕捉されてしまうでしょう。 ただ脱税などで預金を差押えられるかどうかは、現地の法律次第なようなので、 運がいいかどうかの差かもしれません。
次に(b)と(c)ですが、十数年前まではこの手が非常に有効だったのですが、今は規制が厳しくなったので、 おそらく税務署に捕捉されるでしょう。よって財産税のがれには効果が無いでしょうが、預金封鎖とはあまり 関係なく、ハイパーインフレ対策ぐらいにはなるでしょう。
(d)と(e)ですが、財産税のがれには効果が薄いでしょう。特に(e)は税務署にすぐ分かるので、無意味でしょう。 ただハイパーインフレ対策にはなるでしょう。
最後に(f)ですが、国によっては旅行者にも口座開設を認めてくれます。よって、現地に直接行けば 口座開設までなら税務署に捕捉される事は、まずないでしょう。しかし口座開設時に海外で数万ドルとか 預けるのは不可能です。つまりはその海外の口座に後日日本から海外送金で資金を移してやらなければ、 財産を捕捉されてしまうのです。しかし結局は海外送金手続きによって、税務署に資金の流れが分かってしまう、という のが実際のところなのです。
で、ここまで読んでもうお気づきだとは思いますが、私の知識では財産税の捕捉を逃れるいい方法は見つかりません。 結構一般の本にもこの点だけは、あまり触れられていません。勿論、銀行員の友達を作るとか公園のおじさんに 声をかけるとか、または(f)のやり方を応用するなどのやり方で逃れる事は、ひょっとしたらできるかも しれません(詳細はコメントを差し控えます)。でもほぼ無理でしょう。それに断言はできませんが、 戦後直後の前例から言うと、一般サラリーマンの人には、財産税の税率も低く、 ほとんど財産税など関係ありません(預金封鎖は勿論関係ありましたが・・)。 関係あるのは、一部の資産家だけだったようです。しかしその人たちにとっては、 今も昔も重要な問題なのです。

しかし資産家であるか無いかを問わず、私たちにもできる事はあります。 それはハイパーインフレへの備えです。 これは国債にデフォルトの可能性がある限り、対策が必要です。 いずれ国債維持のために、政府は必ず増税の方針を採るでしょう。 それでも、数%の破綻の可能性に備えて、株・債券・固定資産などを 財産に応じていくらか所有しておく事が重要だと思われます。 ですからなぜ今の若い人たちに株の勉強が必要かというと、こういった事も理由の一つなのです。
少年マガジン連載のマンガ「M.I.Q」も好意的な見方をすれば、 決して単純に不安を煽っているのではなく、そういった啓発の意味を込めて描かれているのだと思います。

ただハイパーインフレに備える意味で、外貨に資金を移すのも一手ですが、必ずしもそれで安全なわけでは ありません。というのも今は短期的には円高ドル安の情勢で、為替差損が発生する可能性が大きいからです。 それにアメリカも預金封鎖を想定していると考える学者さんもいらっしゃるので、それも充分に考慮して 貯蓄と投資のバランスをよく考えてみてください。

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This essay is update on Nov.3,2004
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